相続を放棄しようと考えているけど遺品整理できる人がいない、という状況から、どのように対処すればいいのかわからない人は多いでしょう。
遺品整理は原則として、相続人の義務となっています。しかし、相続放棄をしても親族が自分しかいない場合は管理義務が生じ、遺品を適切に取り扱う必要があります。
相続放棄した人がトラブルなく遺品整理をするには、相続に関する法律やルールを適切に把握することが大切です。
本記事では相続放棄後に遺品整理をするにあたって、やってはいけないことや注意点について解説します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
遺品整理・相続放棄の概要
はじめに、遺品整理と相続放棄についてそれぞれ解説します。両者についてしっかり把握しておかないと、トラブルに発展する恐れがあるため、ひとつずつ見ていきましょう。
遺品整理は故人の所有物を整理・処分すること
遺品整理とは、故人が生前に所有していた物品を整理する作業のことです。
故人の所有物を以下の4つに分類し、整理します。
- 保管する物
- 親族が引き継ぐ物
- 寄付や売却する物
- 廃棄する物
遺書や通帳なども確認し、親族で誰が何を相続するかも決めます。親族だけで処分できない場合は、業者に整理を依頼するケースも少なくありません。
遺品整理は故人が亡くなったことを再認識させる作業であり、時にはつらいこともあるでしょう。ただし、そのまま残すと故人のことを思い出すきっかけになるため、気持ちの整理を目的に処分を決断する人も多くいます。
相続放棄は財産の相続を拒否すること
相続放棄とは、本来相続人に該当する人が故人の財産の相続を拒否することです。
相続放棄をすると、故人の遺品や遺産はもちろん、負債を引き継ぐ権利がなくなります。故人が借金を抱えていることを相続人が知っている場合、相続放棄を選択する人は一定数います。
相続放棄をするためには、故人が亡くなったことを知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所に申告しなければなりません。
相続放棄は故人の遺品や遺産に関する重大な決断です。一度申告してしまうと撤回はできないので、相続する予定の遺産をしっかり把握したうえで決断しましょう。
相続放棄をする人が遺品整理でやっていけないこと4選
相続放棄をすると遺品や遺産を引き継げなくなります。遺品整理をしてしまうと「相続した」とみなされ、相続放棄をした人であっても資産や負債を引き継がなければならない場合があります。
以下のような作業は遺品整理をしたとみなされるため、注意してください。
- 相続財産の処分・隠匿・消費・売却
- 入院費の支払い
- 賃貸の解約
- 携帯電話の解約
意図せず相続することがないように、ひとつずつ押さえておきましょう。
相続財産の処分・隠匿・消費・売却
相続放棄を検討している場合、故人の財産を自分で処分したり、隠匿したりすることは許されません。消費や売却も同様です。
民法第921条によると相続人が財産の全部や一部を処分した場合、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄が無効になります。単純承認とは、相続財産を無条件ですべて相続することです。
相続財産の処分・隠匿・消費・売却の具体的な例は、以下のとおりです。
- 不動産の解体
- 証券の売却
- 貴金属の売却
- 賃貸物件の片付け
- 故人が保管していた現金の使用
迷ったときは、一切手を付けないことが大切です。
入院費の支払い
入院費を相続財産から支払うことは単純承認にあたり、相続放棄が認められなくなるため、請求書が届いてもすぐに支払ってはいけません。一方で、入院費の保証人である場合は相続放棄に関係なく支払う義務があります。
なお、本人の所有する財産から支払う場合は、相続財産を消費したわけではないため、問題ありません。相続放棄をする人は相続財産からの支払いは避け、やむを得ない場合は自身の財産から支払うことを検討しましょう。
自分の財産で支払うことに納得できない人は、弁護士や司法書士などの専門家に相談してみてください。
賃貸の解約
故人が賃貸アパートに住んでいた場合、管理会社やオーナーから部屋の明け渡しを要求されますが、相続を放棄した人が解約手続きを進めるのも止めましょう。
勝手に解約すると故人の賃借権を処分したとみなされ、相続放棄が認められない恐れがあります。賃借権は居住者が借りた建物に居住する権利のことで、資産に該当します。
今後の賃料の発生を防ぐことが、財産の減少を防ぐ「保存行為」とみなされるケースもあるくらいです。賃貸の解約についても弁護士や司法書士などの専門家に相談し、適切な対応方法を検討することが大切です。
携帯電話の解約
故人の携帯電話の解約も避けましょう。利用料の支払いを避けることが相続財産の減少を防ぐ保存行為とみなされる可能性があるため、相続放棄が認められないことが考えられます。
携帯電話会社の規約に解約について記載されているので、まずは確認してみてください。また弁護士に相談してみると、保存行為とみなされない解約方法を教えてくれる可能性があります。
解約しても問題ないことがわかった場合は事前に携帯電話会社に連絡し、必要書類や手続きの流れ、解約費用について確認してみてください。なお、解約金が発生した場合も相続財産からではなく、自分の財産から支払うようにしましょう。
相続放棄をしても遺品整理が必要なケース3選
一般的に、相続放棄をしたら遺品整理はしてはいけないことになっています。しかし、以下3つのケースでは相続放棄の有無に限らず整理する義務が生じます。
- 故人が孤独死した場合
- 財産管理の義務が相続放棄をした人にある場合
- 故人が賃貸に住んでいて連帯保証人になっていた場合
「相続放棄したから遺品整理は不要」とは限りません。当てはまっている項目がないか、確認してみてください。
故人が孤独死した場合
故人が孤独死した場合、相続放棄をしていても遺品整理が必要になることがあります。孤独死では遺体の発見が遅れることが多く、遺体の腐敗が進んでいるため、早い段階で対処しなければなりません。
相続を放棄するからといってそのままにすると悪臭や害虫が発生し、近隣トラブルに発展しかねません。室内に体液の痕と強い腐敗臭がある場合は、特殊清掃サービスへ依頼しましょう。
孤独死が発覚したら周囲への影響を最小限に抑えるために、相続放棄に関係なくすぐに対応しましょう。
財産管理の義務が相続放棄をした人にある場合
相続人が選任されなかったり、そもそも存在しなかったりする場合は、相続を放棄した人に財産の管理義務が残り、遺品整理が必要になります。
財産の管理義務は民法940条にも明記されており、相続財産を相続人や清算人に引き渡すまでは相続放棄した人が管理しなければなりません。財産の管理には賃貸物件の明け渡しや実家の清掃などが含まれます。
たとえば、賃貸物件の明け渡しが遅れたために、管理人から損害賠償を請求されるケースがあります。また、空き家を放置して家屋が劣化している場合は近隣住民からクレームが来ることもあるでしょう。
相続を放棄した場合でも、財産の管理人が決定するまでは財産管理を怠らないようにしてください。
故人が賃貸に住んでいて連帯保証人になっていた場合
故人の住んでいた賃貸の連帯保証人であった場合は、相続を放棄しても清掃や支払いなどの責任を負う必要があります。連帯保証人とは、借主(故人)が家賃や修繕費用を払えなくなった場合に、代わって責任を負う人のことです。
賃貸の解約は一般的に、相続放棄をしている人はできません。しかし、連帯保証人の場合は相続放棄の有無に関わらず、賃貸物件の責任が課されます。
たとえば、アパートで故人が孤独死して部屋の状態が悪い場合、特殊清掃を呼ぶ必要があります。また、資産価値がある遺品を確認し、整理を進めなければなりません。
なお、連帯保証人では賃貸を解約できないため、最終的には他の相続人が手続きを進めることになります。
相続放棄する人が遺品整理をする際のポイント5つ
相続放棄する人であっても、遺品整理をしなければいけない場面がいくつかあります。遺品整理に取り組む際は、以下の5点を意識しましょう。
- 日持ちしない遺品は処分しても問題ない
- 金銭的価値がないものは形見分けとして引き継ぐ
- 限定承認による相続を検討してみる
- 相続人がいない場合は相続財産管理人に任せる
- 自身で対応が難しい場合は遺品整理業者に依頼する
相続トラブルを最小限に抑えられるので、ぜひ参考にしてみてください。
日持ちしない遺品は処分しても問題ない
生鮮食品や賞味期限の短い食べ物など、日持ちしないものは財産価値がないとみなされるため、処分しても問題ありません。
ただし、相続放棄後の遺品整理は慎重におこなう必要があるため、処分していいか判断に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。専門家のアドバイスを受けることで、適切な遺品整理を進められ、トラブルを未然に防げます。
金銭的価値がないものは形見分けとして引き継ぐ
金銭的価値がないものは、故人の所有物を家族や親しい人に分ける「形見分け」によって引き継ぎが可能です。写真や手紙など、第三者から見て明らかに金銭に置き換えられないものであれば、形見分けをしても問題になりません。
ただし、金銭的価値がある物品を引き継いだ場合、相続を承認したとみなされてしまう可能性があります。金銭的価値が見込めるために形見分けの対象とならない物品の例は、以下のとおりです。
- 貴金属
- 骨董品
- 家電
- パソコン
- 家具
- 自動車
- 絵画
- 高価な時計
故人の形見として所持するという意図があったとしても、引き継ぐことは難しいでしょう。形見分けをする際は自分で判断せず、弁護士や遺品整理業者に相談することをおすすめします。
限定承認による相続を検討してみる
相続放棄を決断する前に、故人の借金を差し引いた残りの財産を相続できる限定承認を検討してみてください。
たとえば、故人が600万円の借金と評価額1,000万円の資産を所持していたとします。このとき、限定承認によって借金500万円を資産から支払うことで、差額分の400万円を相続できるようになります。
上記の例のように、不動産や遺品など残しておきたい財産がある場合に限定承認が利用されます。
なお、限定承認は相続があることを知ってから3ヵ月以内に、相続人全員による申述が必要です。相続人が一人でも拒否をすると限定承認が適用されないので、じっくり話し合ったうえで決めましょう。
相続人がいない場合は相続財産管理人に任せる
相続人全員が相続放棄をした場合や、そもそも相続人が存在しない場合、家庭裁判所が選任した「相続財産管理人」に相続財産の管理を任せられます。
相続財産管理人は遺産の管理に適しているかどうかを基準に選任され、弁護士や司法書士などが選ばれることがあります。他にも、故人の友人や介護を献身的にしていた人などを「特別縁故者」として選任することも可能です。
相続財産管理人が選任されると、相続放棄をした人の財産管理義務は消滅します。
ただし、相続財産管理人を選任するには、家庭裁判所への申立てが必要です。申立ての際は費用も発生します。とくに、相続財産の管理や相続財産管理人の報酬が相続財産から支払えない場合に、代わりに「予納金」が発生する点に気を付けましょう。
予納金は10~100万円ほどと、まとまった金額が必要になります。相続財産管理人は、費用面も考慮したうえで選任しましょう。
自身で対応が難しい場合は遺品整理業者に依頼する
相続放棄をした人が自己判断で遺品整理を行うのはリスクが高いため、業者へ依頼するのがおすすめです。自分で遺品整理すると誤って資産に該当する遺品を処分してしまい、相続放棄が認められなくなる恐れがあります。
遺品整理業者に依頼することで、遺品の分類や処分などを任せられます。遺品整理士の資格を持ったスタッフであれば、法的知識や遺品の取り扱い方に関する知識を駆使して対応してくれるため、安心して処分できるでしょう。
また、業者によっては遺品の供養や買取り、特殊清掃も実施してくれます。相続放棄した際は相続人よりも慎重に遺品整理する必要があるため、自分での対応が難しい場合は業者に依頼しましょう。
相続放棄する人が遺品整理をする際の注意点3選
相続放棄する人が遺品整理を行う際は、以下の3点に気を付けてください。
- 相続放棄の取り消しはできない
- 預貯金や現金には手をつけない
- 一部の支出は相続財産からの支払いが認められる
相続放棄をした後に後悔しないためにも、ひとつずつ押さえておきましょう。
相続放棄の取り消しはできない
相続放棄は家庭裁判所に受理されると、原則として取り消しができません。手続き後に莫大な価値のある遺品が見つかったとしても、相続できなくなります。
取り消しが認められていない理由は、借金の債権者が誰に請求すべきか明確にするためです。債権者は相続放棄の事実を知れば、その相手には請求できなくなり、次順位の相続人に請求することになります。
もし簡単に相続放棄の取り消しができたら、債権者は誰に請求すればよいかわからなくなってしまいます。
取り消しできないことを十分に認識したうえで、手続きしましょう。放棄した後で後悔しないように、事前に遺品や遺産を確認することをおすすめします。
預貯金や現金には手をつけない
故人が残した現金や預貯金には、一切手をつけないよう意識してください。故人の資産を手にする行為は単純承認に該当し、相続放棄ができなくなってしまうためです。
例えば、故人名義の預金の引き出しや解約、名義変更などは相続財産の処分行為とみなされる可能性があります。また、被相続人の借金を預貯金や現金で返済することも禁止されています。
万が一、預金を引き出してしまった場合は被相続人の口座に再入金するか、自分のお金と分けて管理しましょう。
一部の支出は相続財産からの支払いが認められる
相続放棄をした場合でも、一部の支出は相続財産から支払うことが認められています。例えば、以下のような費用であれば相続財産から支払っても認められるケースがあります。
- 葬儀費用
- 墓石
- 仏具
ただし、一般的・社会的に見て明らかに高額な葬儀費用を支払った場合には、相続財産を処分したとみなされる可能性があるため注意が必要です。墓石や仏具の購入についても、一般的に高額ではない範囲での支出であることが条件となっています。
定められている基準はあくまで「一般的に高額ではない」であることから、具体的にいくらまでなら問題ないか一概には言えません。不安な場合は弁護士に相談して、いくらまでなら認められるのか確認してみてください。
相続放棄した人向けの遺品整理についてまとめ
相続放棄した人は原則として、相続財産の処分や消費などをしてはいけません。入院費の支払いや賃貸の解約もできないため、自分の判断で動かないようにしましょう。
ただし、以下のような場合は相続放棄の有無に関係なく、遺品整理をしなければなりません。
- 故人が孤独死した
- 財産管理の義務がある
- 賃貸の連帯保証人になっている
相続放棄をした状況で遺品を処分していいかどうか判断できない場合は、弁護士に相談したり遺品整理業者に依頼したりしましょう。
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